スペシャル対談@河口湖 第1回 竹内洋岳 プロ登山家 × 並木敏成 プロフェッショナルアングラー

のんびりしてちゃ、
釣りも登山もしない

日本人初の8000m峰14座完登の竹内洋岳と、
プロアングラーとして世界で活躍する並木敏成が
顔を合わせるのは、意外にも今回が初めて。
二人の希望で実現したバス釣り対談は、
釣りをこよなく愛するもの同士、笑みのたえない楽しい時間となった。

竹内 今日はお会いするのが楽しみでした。どうぞよろしくお願いします。

並木 私も楽しみでしたよ。釣りはどのくらいされているんですか。

竹内 登山に出ていないときはなるべく行くように。ブログをやっているんですけど、山に行かずに最近は釣りの話題ばかりだってお叱りを受けるくらいです(笑)。

並木 バスもやるんですか?

竹内 やります。昨日もここに朝から来て、日没まで粘っていたんですよ。

並木 えー、そうなの。

竹内 今日の本番で並木さんに失礼のないようにと思って。練習したかったんです。

並木 いや、それはすごいな(笑)。じゃあ、さっそく釣りに行きましょうか。

(並木の愛艇に乗り込み、釣りを開始)

並木 今日は竹内さんの分も道具をたくさん持ってきたから、好きなのを使って下さい。

竹内 (並木さんのロッドを手に取り)明らかに重みが違う。ただ軽いだけでなく、バランスが絶妙ですね。

並木 たしかにただ軽いだけが良い道具ではないからね。登山の道具もそうじゃないですか。バランスは重視するでしょ。

竹内 そうですね。多少重くても、バランスの取れた方を選びます。

並木 良いこと言うなあ(笑)。まったく同感です。

(釣りを開始して早々、竹内の竿に当たりが。見事な竿さばきでボートに寄せて、まずは1匹目をゲット!)

並木 すごいよ! 釣る人だとは思ったけど、本当に上手い。

竹内 いやいや、並木さんの言う通りにやっただけです。

並木 そうは言っても、できない人もいるからね。合わせもピッタリ。良いタイミングでさ、焦らずゆっくりと、その後の動作も上手かったなあ。最後はボートに寄せつつ、僕の手がある方にすっとバスの口を上に向けてくれたからね。お見事でした。

(釣り場所を変えて、再びキャスティング)

並木 そういえば、竹内さんは雪崩に巻き込まれてひどい骨折をしたでしょ。ボートの衝撃とかは大丈夫?

竹内 もう7、8年前ですからね。腰ついの3番目がけっこう大きくつぶれちゃったんですけど、金属のシャフトも抜きましたし、これくらいの衝撃ならぜんぜん。ただ、体の軸がずれた感じがあって、山を歩くときに足をおくタイミングがずれたなと感じるときはあります。並木さんはこれまでにケガは?

並木 幸い、大きなのはないですね。単純に竿の振りすぎで腱鞘炎になったり、軽いヘルニアはありますけど。

竹内 こういう仕事だと、腰や背骨にも負担がかかりますよね。このボートは時速どれくらいまででるんですか?

並木 ここよりもう少し助走距離があると100kmくらいまでは。今日は波があるので少し抑えました。

(ボートを陸にあげ、昼食後に改めて対談)

並木 いや、ほんと、朝の早いうちに竹内さんに釣ってもらって良かった。値千金でした。

竹内 前日の練習が効きましたかね。自主練が(笑)。

並木 みんなあれで気持ちがラクになった。空気を読んだ良いバスですよ。

竹内 いま思えば、もっとあのバスに感謝しないといけなかったですね。まさかあの後、一匹も釣れないとは……。

並木 ご褒美に、エベレストに連れていってあげなきゃ(笑)。

竹内 並木さんのルアーのおかげです。すごくリアルというか、ぬれぬれ感があって、色がきれいなんですよね。

並木 ペイントは日本の工場で。金型など重要な行程はすべて日本で作ってます。

竹内 プロトレックも上位モデルは山形の工場で特殊な行程を踏んでますが、やっぱり日本だからこそできる部分もありますか。

並木 それは多分にありますね。たとえばワカサギに似せるために紫の線をサイドにほんの少し入れるとか、そういう細かいリクエストは日本の工場だからこそ受けてもらえる。海外だと、どうしても出たとこ勝負的なところがありますから。

竹内 魚よりもまず、人に食い付いてもらわないといけないから大変そう。まずはお店で選んで買ってもらわないと。

並木 魚よりも先に、人に満足してもらわないとね。そこは非常に重要です(笑)。今日はこうして釣りの途中にご飯を食べてますけど、対談じゃなかったらきっと釣りを続けているよね。竹内さんは登山中、どんなものを食べているんですか。

竹内 超高所だと、低酸素なので食べると疲れるんです。それを消化するために水分と酸素をすごく消費するので。だから具合も悪くなるし、食べなくてすむものなら食べたくないんですけど、エネルギーを入れるために体に負担の少ないものを食べますね。それはもはや車にガソリンを入れる感覚に近い。のんびり景色を眺めながらというのはないです。

並木 もう別世界なんだね。人が住めないところに行っているわけだから、釣りの過酷さとはわけが違う。

竹内 いや、釣りは過酷ですよ。揺れる船の上に何時間と立っているだけでも相当疲れる。つねに投げ続けて、(リールを)巻き続けていないと結果のでない世界ですから。

並木 それが不思議なもので、立ち続ける体力は今の方があるんです。20代のころにああいうボートに乗り始めたんですけど、当時は午後になるとしゃがみながら釣りをしていた。順応したのかな。

竹内 長年やっているうちに体が釣り仕様に作られてきたんでしょうね。宮大工の職人さんに聞いたことがあるんですけど、正確にのこ(ぎり)を引ける人はいないんですって。一日中、休むことなくのこを引けるようになって初めてそれが可能になる。

並木 ゴルフのスイングも野球の素振りもそういうことかな。プロ野球の選手でも毎日素振りをしてますもんね。

竹内 面白い体験があって。じつは私、始球式をやったんですよ。ボールを投げるのは子どものころ以来で、当日に改めてボールの投げ方を教わりながら。せいぜいブルペンでの練習と本番の1球、合わせて10数球投げただけなんですけど、次の日にひどい筋肉痛になったんです。箸も持てないほど腕が震えて、ああオレの体からはボールを投げる能力がもはや退化したんだなって。

並木 江川(卓、かつての巨人のエース)の百球肩ならぬ、十球肩(笑)。確かに私も、急にボールを投げろと言われたら困るな。竿は何百回と振れても、ボールは投げられない。始球式は緊張しなかったんですか。

竹内 伝統の巨人阪神戦だったんですけど、人工芝のところまで行ったら観客が多すぎてかえってよくわからなかった(笑)。直前に内海(哲也、現巨人のエース)投手にアドバイスしてもらったおかげで、なんとかノーバンで投げることができました。

~ 後編へつづく ~

Side Story

並木、竹内、ともにプロトレックを装着するのは右腕。左利きの並木はキャスティングする左手をできるだけ軽く違和感なくしておきたい理由から、竹内は右利きだが登山中基本的に左手でホールドするので、プロトレックを見るためにはフリーな右腕が適している。

〈PRW-6000〉シリーズの製品情報について

Photograph Timeline

日が明けてまもなく、河口湖畔に並木が到着。 キャンピングカーの後ろには愛艇のバスボートが牽引されている。

釣りが趣味で、前日からバス釣りを楽しんでいた竹内。 二人が顔を合わせるのは初めてのことだ。

水辺と高山、活躍するフィールドは違っても、 世界のトップを極めたもの同士の会話は弾む。

7時過ぎ、いよいよバスボートが湖面に着水。 富士山が大きく見える。

O.S.Pは並木がプロデュースする釣り道具ブランド。 アイテムが豊富に揃う。

上空に梅雨の晴れ間が広がるなか、 いよいよ釣り対談がスタート!

ルアー(疑似餌)を結ぶ方法はさまざま。 登山のロープワークに通じるものがあるのか、竹内が熱心な様子で見守る。

釣りこそが人生のすべて、と話す並木。 竿さえ握っていれば終始ご機嫌だ。

広い河口湖の湖面では、時速100kmを誇る バスボートの性能がより生きる。

操船にも熟練の技が冴える。 右手に光るのは、プロトレック 「PRW-6000」。

並木の助言に耳を傾ける竹内。 そのキャスティングさばきはまさに玄人はだし。

並木のロッドを初めて使った印象を、 竹内は「軽くてバランスが絶妙」と話した。

移動中のひとこま。 並木がSAで買ってきたという煎餅を、二人で頬ばる。


取材・文:小堀隆司 / 撮影:廣田勇介 / 企画・プロデュース:嵯峨純子(ART OFFICE Prism Inc.)